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時折唯が心配そうに見るけれど、その視線にヒナはニコリと笑ってペンを持つ。
こうして学校にいるといつもと変わらない。
「あ、ヒナ! 不幸があったって聞いたけど大丈夫なの」
「うん、ありがと」
「そういえばさ……」
授業が終わって周りがヒナを気遣うもこの程度で、カフェではみんなといつものくだらない会話を交わした。
唯が誰にも話していないおかげで、誰もヒナの父親には触れてこない。
きっと、親戚の誰かが亡くなったくらいに思っているんだろう。
「ありがと、唯」
それがありがたくて、ヒナはこっそりと唯に耳打ちするのだけど、唯ら困ったような笑みを浮かべることしか出来なかった。
「ヒナちゃん! まだ休んでてよかったのに」
夕方はいつものバイト先へ。
ヒナの姿を見て驚く瑞希にヒナはニコリと笑う。
「すみません、無断でバイト休んじゃって」
「いや、それは当然と言うか……、本当にお父さんは……」
歯切れの悪い瑞希の声にヒナは困ったような表情をしてみせた。
普段、無断で休むことが無いので心配しめ瑞希からの電話すると、それに出たのはヒロキだった。
「もっと早くに教えてもらえたら葬儀にも出席したかったんだけど」
「いえ、場所も遠いしあちらの会社のほうでちゃんとしてもらえたから」
こんなとき、どんな表情をすればいいのかわからず、ヒナはただ薄く笑みを浮かべる。
その姿が妙に痛々しく、瑞希は彼女の頭を優しく撫でた。
「辛かったね」
そっと撫でてくれる手が暖かい。
周りの誰もが暖かくて、
嬉しい。
そう思うのは自然なことなんだろうか?
でも、そう口にしてしまうのはなんだかいけない気がして……。
「でも、もう大丈夫ですから」
ヒナはそう言って眉尻をさげたまま笑って見せた。
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