Pray

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時折、雨は止むもののやはり梅雨だ。 空はどんよりと重い雲を抱えて、不快な湿度は増すばかり。 それでも、過ごす毎日は変わらない。 学校に行って唯に会って挨拶を交わして。 ヒナがいつもと変わらないから唯も変わらない。 勿論、周りの友達も。 決められた日にはバイトに行って『ヒナちゃん先生』として働いた。 家に帰って晩御飯を作ってヒロキの帰りを待つ。 ヒロキが家にいるときでも、なるべく仕事の邪魔をしないようにリビングでアルバムを眺めて過ごす。 もうそれが日課で当たり前に。 「また見てんのか」 「あ、うん。コーヒー入れてあげようか?」 そう自然と返ってくる声にヒロキは苦笑しつつも「頼むよ」とソファに座った。 ヒロキとは対照にヒナはアルバムをテーブルに置いて立ち上がる。 ゆっくりと漂い始めるコーヒーの香り。 ヒロキは手を伸ばし、さっきまでヒナが見ていたアルバムを開いた。 写っているのはいつもヒナ。 その隣にいるのは友達だったり先生だったり。 決してそれ以外は写らない。 『家族』写真とはいえないけれど、ヒナにとっては間違いなく――。 「これはね、運動会。これでも結構足速かったんだよ?」 「へぇ。っつか、春に運動会?」 「うん、ヒロ君とこは秋?」 「だった気がするな」 「そっか」
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