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Raindrop
「なんか変だってさ」
「……」
だからこそ、こんなところで飲んでる余裕も無いというのに。
カウンターしかない静かなバーに大型犬が二匹肩を並べる。
「どこがって上手く言えないらしいけど」
そんなトモの声を聞きながらグラスの中の氷をカラリと鳴らす。
きっと、彼女の異変なんて他の誰も気づかないだろう。
いつも傍にいる唯だから気づいて、けれど本人を問い詰めずトモを使ってヒロキに聞くのは彼女の気遣い。
だから無碍には出来ず彼はここにいる。
「普通、父親が亡くなればそんなもんだろう?」
そんな彼にも、ヒロキには当たり障りの無い答えしかすることは出来ない。
それが分かるからか、トモも「まぁな」と苦笑した。
「ま、お前が付いてれば大丈夫だろうけど」
そう言われるとヒロキも苦笑するしかない。
傍にいるからといって何も出来ていないのだから。
「……大丈夫、じゃないわけ?」
「知ってるか? 泣くって行為で人間はストレスを軽減できるらしい」
「はい?」
「でも、こればっかりは、な」
どうしようもない。
こんな状況じゃないなら感動的な映画を見て涙するのもありだろう。
だけど……。
「心配ないって伝えとけよ」
「……おう」
そう口にしてほろ苦い煙草の煙を肺一杯に吸い込んだ。
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