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ちょっとだけ意地悪な台詞。
それを口にしようとして、ヒロキはその言葉を途中で飲み込んだ。
「ヒナ?」
「……」
葉を揺らす風が長い黒髪も揺らす。
「どうしたんだろう?」
「……なにが?」
「パンダのぬいぐるみ」
「……」
大きな瞳は通り過ぎた父子の後姿を映したまま。
「どうしても欲しくて、初めてきたときに買ってもらったのに」
田舎から引っ越してきて初めての夏休み。
なかなか友達も出来なくて、学童でも部屋の隅で蹲ってた。
だから初めてつれてきてもらった動物園はまるで夢の国。
ずっとここに居たくて、でも帰らないといけなくて駄々を捏ねた。
欲しかったのは一人でも傍にいてくれるなにか。
動物を飼うことは出来ないから、せめて――。
『パンダのぬいぐるみが欲しい』
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