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駅からそう遠くない居酒屋であったため、そして葦木場さんの歩きの速さですぐに最寄りの駅前まで着いた。
そして駅前の犬の銅像の前で葦木場さんは立ち止まった。沢山待ち合わせなのかで沢山いる人間の前で。
そして振り返り嫌そうな顔で俺にこう言った。
「あたしは男が嫌いです。あなたもその1人。だから嫌いです」
驚いた。
だってそんなこと言われたことがない。
それと同時に心臓の鼓動が早まった。
「…もし犬なら?犬のオスは?」
「は??」
思ってもみなかった俺の返答に今度は顔をしかめた。葦木場さんは結構表情豊かな人なんだな、と一瞬思ってから俺は言葉を続けた。
「俺もね、女性が嫌い。異性が嫌い。女というモノが嫌い。犬も猫も鳥だってメスが嫌いだよ」
多分今の俺の顔は笑顔だ。
こんなこと、初めて人に言ったんだから。
生まれて初めて親にも言ったことないこと。
引くのかな?気持ち悪いって言うのかな?
でもね、俺は葦木場さんを初めて見たあの時から
【この人は同族だ】って確信したんだ。
この見た目がとても男の子っぽいこの女の子に。
「あたしは…」
俺の心は笑顔とは裏腹にすげードキドキしてる。
『どうか気持ち悪いって言わないで』って…
「あたしは、男が嫌いです。全員。興味もない。あなたは性同一性障害ですか?」
「いいや、違うよ。俺は男だもん」
「あたしも同じです。女です。生物上は変えません。これがあたしの…」
「運命、だからね」
ポンポンと、葦木場さんの頭を撫でたら腕をつかまれた。
怒りに満ちた顔だ。やばっ、と思った瞬間には遅く俺の足は地面から浮き、そして思いっ切り地面に叩きつけられた。所謂、一本背負い…
周りの人間はいきなりの一本背負いを目の当たりにし俺達が喧嘩したんじゃないか、と人だかりが出来てしまい誰かが警察を呼ぶ声が聞こえた。
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