氷雨

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「何やってるの?こんな寒い中、雨に打たれたら風邪ひいちゃうじゃない!」 麻衣子は真剣だった。 着込んでいる自分でさえ寒いのに。 雨に濡れた彼はどれだけ冷たくなり、凍えていることだろう。 そう心配している麻衣子とは裏腹に、目の前の彼は他人事のような声音で答えた。 「……う、ん。…そうだね。」 一瞬、麻衣子の言葉に目を見開くも、すぐに自嘲を含んだ凍えた声で素気なく答えた。 吐く息は白い。 微かに震えている。 麻衣子はバッグからタオルハンカチを取り出して、彼の髪の毛や顔、手を拭いてあげた。 「あ、…ちょ、なにっ」 「黙ってて。ハンカチが小さくてごめんね。」 きっと不思議に思っていることだろう。 馬鹿な人だ、と。
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