氷雨

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ある程度拭き終わって、身につけていたマフラーを剥ぎ取って、無理やり彼の首に巻き付けた。 そして、彼の手を取る。 「立って。」 「え?」 立ち上がらない彼の手を掴み立ち上がらせ、引っ張るように歩き出す。 「あ…ちょっと、どこ、行くの?」 とても弱っているように見えた。 消えてしまいそうに。 だって、瞳に光を感じられなかった。 放っておかなかった。 生きてほしい。そう思った。 「私の(うち)よ。」 「え?!」 「そのままだと風邪ひいちゃうでしょ?5分くらいだから少し我慢して。」 「……う、ん…っ」 氷雨の降る日。 私と彼の最初の出会いだった。
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