プロローグ

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そういえば、あの日も寒くて雨が降っていたなぁ。 脳裏に浮かぶのはあの日のカレ。 捨てられた犬のように小さく、怯えた様子で。 つぶらな瞳で見つめてきたのを今でも覚えている。 あぁ、急に餡子が食べたくなってきた。 妊娠をして、食べ物に偏りが出るとは聞いていたけれど、自分はどうやら餡子が食べたくなって仕方がないようで。 寒いけれど、この温もりを少し手放して、夫を起こさないようにそっとベッドから抜け出す。 ベッドサイドの椅子に引っ掛けたニットのカーディガンを羽織って、台所へと向かった。 「…さむ」 起きたらまた荷造りをしないといけない。引っ越し準備で忙しくて、最近は暇があれば荷造りをしている。 部屋はだいぶダンボール箱でいっぱいになってきた。
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