プロローグ

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引っ越しまではまだ時間がある。 台所や寝室は最終日まで使うところだからあまり手を出せないのがもどかしい。 計画を立てると、次は次は、と先を求めてしまう。 椅子を持ってきて、小豆の鍋の前に座る。 外を見れば、雨は止んでおらず起きた時と変わらない景色がある。 雨音もそのまま、弱くも強くもなっていない。 「……まいさん?」 眠そうな声が後ろからかかった。 「あ。起こしちゃった?」 「ううん。何してるの?」 「食べたくなっちゃって、起きるまで我慢できなくて小豆煮てるの」 「赤ちゃんも君も、餡子が好きなんだねぇ」 朗らかに言う夫が近づいてきて、私を抱き寄せる。鍋の中を覗き込んで、私に微笑みかける。 「無性に食べたくなるこの感じは、産んだら治るのかな?」 「治らなくてもいいんじゃない?洋菓子より和菓子の方がカロリー低いって聞くよ。…飽きた?」 「それが全然飽きないの。こんなに食べてるのにね?……さすがに飽きた?」 私に付き合って餡子レシピを食べている夫は流石に飽きてくる頃だろう。いやとも言わず、むしろ美味しいといいながら一緒に食べている。
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