最後の天皇と記者とのやり取り

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「皇太子は男性ですか」と、古手の女性記者が聞いた。 「女性を無理やり性転換することなんて、私は考えたこともありません。正真正銘の男です。二十歳になったので、そろそろ、手元に置いて皇太子としての実地教育をさせようと思います。公式行事にも代理で出席させるつもりです」と、にこやかに答えた。  記者会見は終わった。このニュースは、トップニュースになった。記者たちは、皇太子探しに散っていった。 結婚したといっても、天皇の結婚履歴など調べようがない。皇族は区役所に婚姻届を出すわけではない。しかし、二十年前に天皇に近づいた女性が妊娠したという噂はなかった。宮内庁長官は、すぐにインタビューに応じたが、何も知らないといい、私もテレビで見て知ったばかりだといって怒っていた。私はすぐに高木侍従長に電話したが、何も知らないという。「あんたが知らない筈がないだろう」と怒鳴りつけたが、何も知らないとしか答えなかった。 私にとって、高木は手駒だ。女を抱かせて懐柔し、なんでも教えてくれるようにしてある。あまり正直に教えてくれるので、私が心配になるぐらいだ。だから、高木から聞き出した情報をすぐに発表しないことも多い。  高木は、もうすぐ定年を迎える典型的な小役人という感じの男だ。誠実だが貧相な男だ。表面的には悟ったような顔をしていたが、女性に飢えていた。私が提供した女性を愛人にした。しかし、私が握っている秘密は、不倫というような軽いものではない。高木にとって致命的なものだ。高木が皇后のドレスを身に着けた女を「皇后様」といいながら、ドレスに射精した動画だ。この動画を見せた時、高木は青ざめ、どこから盗撮したのかといって怒ったが、表ざたにするといったら、自殺するしかないといって泣いて赦しを乞うてきた。ドレスを私用のために持ち出したということはたいした犯罪ではない。しかし、狂信的な愛国者がこの事実を知ったら、一家全員惨殺される。本人も確実に殺されると思っているから泣き出したのだ。狂信者たちが、万死に値するとの宣言を出したら、死ぬしかない。警察は保護してくれない。民事不介入というのだが、完全武装した五、六人の処刑人がやってくるので、警官が一人いても殉職するだけだ。だから、警察は見放してしまう。刑務所へ入れば安全かもしれないが、いれてくれない。海外へ逃げ出しても安全ではない。追いかけてくる。
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