最後の天皇と記者とのやり取り

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 その三年後。アキヒトは久々の記者会見を病室で行った。ベッドで上半身を起こして記者たちが入って来るのを迎えた。服装は軽装だったが、パジャマ姿ではなく記者会見に相応しい服装だった。ガンが体全体を蝕んでいて、もう歩くことはできないと、侍従長から事前説明があった。 実際、アキヒトの呼吸は荒かった。 「みなさん。久しぶりです。公務を休んで申し訳ないと思いながら、静養しています。  私の病気はガンです。七年前に病巣は摘出しましたが、手遅れでした。すでに、全身に転移しており、余命一年と宣告されました。それから、七年も生きることができたことは、奇跡です。  医療関係者の皆様の尽力に感謝を伝えたいと思います。最後に、記者のみなさんの顔を見て、質問に答えたいと思い、こうやって病室にまで来てもらいました」といわれた。凛としているが、か細い声だった。耳を澄まさないと聞こえなかった。息が乱れているので、いつも以上にゆっくり話をされた。  最初は、天皇の体を気遣って質問者が現れなかったが、 「最後ですから、何でも聞いてください。君たちには、私が死んだ後で記事を書いてもらわないといけません。すでに、死亡記事の原稿を書いているのではないですか。記事を書く時に疑問があるようなら、質問してください」と、笑いながらいわれた。
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