最後の天皇と記者とのやり取り

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 私は皇室番の記者で、天皇の登場を待っている。今日は、アキヒトの即位した日であり、毎年記者会見が開かれる。定刻より遅くなって、六十二歳のアキヒトが侍従長の高木を従えて会見場に入ってきた。みな、頭を下げて天皇が玉座につかれるのを待つ。  例年、アキヒトは一年間を振り返って感想を述べる。ゆっくりしたテンポで、淡々と一年間の出来事を振り返られる。独身で皇后や子供がいないので、明るい話題はない。病気がちで、老いが目立ち、生きているのがやっとという印象を受け、写真を撮っても絵にもならない。私は質問をせず、黙っていた。  録音すると自動的に原稿にして送信してくれる装置があるので、メモを取る必要はない。決められていた1時間が過ぎアキヒトは立ち上がりかけ、空中で動きを止めて座り直した。 「発表しようかどうか悩んでいたのですが、退屈そう亜君たちの顔を見ていて、発表することにしました。私は、そろそろ第一線から身をひく年齢です。天皇は死ぬまで現役ですが、病気になった時に公務を代わりにしてくれる後継者を欲しいと思っていました。二か月前に、息子が二十歳になりましたので、息子を皇太子にしました」といった。会場は、ざわめいた。私にとって初耳だった。 「何も言っているんだ」と、私は叫びたかったが、周囲を見渡した。自分だけが出し抜かれたのかもしれない。他社の記者たちと顔を見合わせた。彼らも驚いた目で、こっちを見てくる。みな初耳のようだ。噂を聞いたこともない。
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