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多くの人の目にアキヒトは手詰まりの状況に見えた。だから、私は「ラスト・エンペラー」と呼んでいた。アキヒトの死後、天皇制をどうするかに私の関心は移っていた。それが、皇太子を立てるという。
アキヒトは嬉しそうに、
「私の妻が産んだ息子が成人しましたので、成人皇族として働いてもらおうと思います」
「皇太子様の母親は誰ですか。教えてください」と別の記者が質問した。皇室担当の記者として、少し敬語が不適切だったが、誰もそんなことを咎める人はいなかった。天皇に出し抜かれた。それも、二十年も昔に。そんなことは信じられない。バカ野郎。そんなことがあってたまるか。私は怒っていた。今、発言すればもっとヒドイ物言いになりそうだから、発言は控えていた。
「その点については、まだ、発表する段階ではありません」
記者がこんな説明で納得できる訳がない。女性記者が、
「なぜ、秘密なのですか。祝福されるべき方の名前が、秘密なのですか」
「皇太子になるのは、ナツヒトといいます。夏の似合う青年です」
「どうやって、親子関係を証明するつもりですか。DNA鑑定では不十分です」と、別の記者が切り込んだ。
「私は息子を一日三時間インターネットで教育をしてきました。天皇がどうあるべきかを教えてきました。その記録が、十年分残っています」という。何が問題にされるか十分わかった上で、皇太子にしようとしている。インターネット上のコミュニケーションが認められるかどうかが問題だが、実際に会っているかのように話ができるバーチャルテクノロジーを否定することは誰にもできないだろう。
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