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とはいっても、天皇の意向は無視できない。スクープを書いた記者は宮内庁出入り禁止になる。雑誌社は、スクープを書いた記者に特別ボーナスを払い別の部署に異動させるしかなかった。だから、記者会見に出てくる記者は、天皇を尊敬している年配の記者とスクープを書こうとしている野心家の新人記者に二分できる。若い記者たちは、スクープを書いて早く皇室番を逃れたがっている。記者になった以上、政治とか外交とかの記事を書きたいと考えるからだ。宮内庁への出入り禁止を勝ち取るために必死にスクープを探しているといってもいい。
私は年代的にはその中間だ。三十歳代の記者は十数人の記者の中で私だけだ。私はまだスクープ記事を書いたことがない。だが、情報収集能力は誰よりも優れていると自負している。ただ、特ダネをつかんでも、手柄を若い記者たちに譲って、自分では書かないだけだ。私は皇室番でずっといたいと思っている。皇室番は私の天職だ。私は、昔から天皇が嫌いだった。選挙で選ばれるでもないのに、広大な皇居に住んでいることが許せなかった。私の母は、三人の子供を女手一つで育て、ボロボロになって四十歳そこそこで死んでいった。だから、金持ちの天皇を母の仇だと考えている。
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