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私は彼女の「はい」と答える声が聞こえた。
「あれ?いないのか?新崎、幼馴染だからなんか知らないか?そういえば昨日母親から電話来たな……」
「いえ、すみません……」
彼女はスマホの中にいる。でも答えられない。
その時だった。
「やっぱり昨日、好ちゃんがあんな強く言ったから」
「何なの?私が悪いって言うの?」
後ろから二人の生徒の声が聞こえる。
昨日?
「あっ、ごめんね。走ったらあなたに激突しちゃったわね?」
目を開けると誰もいなかった。でも聞き覚えのある声がする。壁で死角になっていた上に歩きスマホをしていたのは自分だ。悪いのは自分の方だ。
なんとなくスマホを持ち上げる。
「夏美?」
彼女は私のスマホの中に入っていた。彼女は涙を流していた。
「お前、泣いてるじゃん。痛かったのか?」
「違うの。ゴホゴホ……」
彼女は激しい咳き込みをする。
「分かった、落ち着こう。そうだ……」
私は屋上に向けて階段を上がる。この時間帯なら……。
「落ち着いたか?」
ベンチについて腰を下ろして言う。
「うん」
「そんでなんで走ってきたんだ?」
「揉め事があったの。指示出しまくるタイプだから、私」
「あぁ、そうだな」
「でも私……彼女に優しく言ったつもりなのに……」
「……全くお前は……」
私はスマホをひっくり返して外に向ける。夕日が私たちを包んでいた。
「綺麗だね……」
「あぁ……」
「ありがとう」
私は彼女のことを完全には知らない。それでも彼女と関わった時間はこの学校でも一番長いと思っている。彼女がどんなに指示を出しまくっても相手のことを考えていることも。
「私……」
「何も言わなくていい」
「死んだ方がいいのかな?」
一瞬、風が激しく吹き注ぐ。
「お前、今の姿見てからでも言えるのか?」
「そういえばここってどこ?」
「屋上……そして俺の手に握られたスマホの中だ」
「通りで居心地が変だと思った」
「男子トイレに行って見に行くか?」
「あんた?変態?どんなことあってもそこに私を連れていかないでよ」
良かった。彼女のご機嫌が戻ったようだ。
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