第1章

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「おう、今日もノンキに歩いてんじゃねえか」  それからというもの、近所に住んでいるのかヤクザの彼と定期的に遭遇してしまう。挨拶とかやめてほしい。ハタから見れば私はヤクザの関係者に見られかねないのだ。  でも彼自身は悪い者ではない。  むしろ良い奴だ。知り合いになる事が出来て嬉しくも思う。  ならば、悩まずとも答えは出ているというもの。  周囲の目など気にしても仕方ないというだろう。 「ちょっと付き合えよ。今日はこっちがオゴるから」 「え……こんな俺に? 本当にいいのか?」 「嫌なら来なくていいぞ」 「んな事言ってねえだろ」  こうして30歳過ぎて顔と名前が一致しなくなるほど人付き合いが上辺で希薄な社会の流れに身を任せている内に友という概念を失いかけていた私に、新たな友が出来たのであった。 彼に感謝をしなければ。  普通という時間を無意味に消費していた自分に気づかせてくれたのだから。 (おわり)
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