第1章

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「あ、ちょっと」  呼びとめられて振り返るとそこにいたのは……知らないオバサンだった。一体誰だろう。  三十代後半の年齢になって最近ひとの顔と名前が一致しない事が多くなってきている今日この頃だが、そもそも呼びとめてきた中年女性を私は知らない。  いいや、もしかするとこれは逆ナンパという奴だろうか?  この中年女性は年月を重ねていく日々を過ごす内にこのまま自分は一人で生き、そして最期は独りで死を迎える事に戦慄して近しい歳であろう私へ逆ナンをしてきたというのだろうか? 「あ~すみませんスミマセン間違いでした!」  無論、ナンパなわけがない。  こうして中年女性は人違いの羞恥から逃げるようにそそくさと去って行くのであった。  実を言うと、こういう事は定期的に遭遇する。  同僚には学生時代の同級生に似てると言われ、  同級生からはイトコにそっくりと言われ、  あらゆる知り合いから定期的に「この前○○歩いてたよね?」と行った事も無い場所を差して尋ねられ、  今朝ゴミ捨て場ですれ違った隣人からは「昨日の夜中にそこのコンビニで殺虫剤買ってたけど……出たの?」と私の寝ていた時間に恐れられ、  果ては「元カレに似てるから無理」と好意を抱いてもいない女性から告白すらもしていないのにわざわざご丁寧に断られた事もあった。  どうやら、私と似ている顔の造りである者がいるらしい。というよりも厳密に言い表すならば私はどこにでもいるような特徴の無い普通な顔という事なのだろう。  なお、これが行き着くところまで行くと。
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