第1章

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「よし、メシおごってやる!」  そしてなぜだろう。  私は何を言ってもいないのにヤクザは勝手に頭を上げ、そのまま小汚いラーメン屋へと連れていかれるのであった。 「オヤジ、チャーシュー麺とチャーハン2人前、それから餃子4人前」  入店と共にヤクザが注文をし、彼に導かれるまま肩を並べてカウンター席に腰をかける事に。 「ヘイお待ち」  座ると同時に店主が大量の餃子を目の前を置く。  あまりにも急な展開に戸惑うしかない。  何より、至極個人的な話だが、私は餃子が嫌いだ。  4人前も並べば目まいだってしてしまうのである。  なぜ包む必要がある?  なぜ羽をつける?  なぜ皆とりあえずビールと一緒に頼む?  そんな餃子に対する憂いを懐く私に、ヤクザの彼が優しく言った。 「ほら、好きなだけ食え。足りなきゃもっと頼んでいいからな」  餃子が嫌いだけど、嫌いだからいらないと拒否したら再び殴られるのだろうか。  そもそも拒否する度胸もない私である。  まあ、食べられないほど苦手なわけでもない。  不器用ながらも彼にとっては償いなのだ。素直に受けるとしよう。 「ヘイお待ち」  割り箸を手に取り二つに分けて餃子を食べようとした時、調理を終えたのかチャーシュー麺が目の前に置かれた。  丼内にあるはずの麺を覆い隠すほどに乗せられた溢れ出んばかりの肉厚な5枚のチャーシュー。何とサービス精神に溢れているのだろうか。店を小汚いとは思ってしまったが、ゆえにここは名店なのかもしれない。  しかし、私は肉が好きではない。餃子が嫌いなのもそういう理由である。  でもヤクザの償いである。  そもそもラーメンの主役はスープというもの。美味しいスープに浸せば苦手なチャーシューも食べられるだろう。
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