第1章

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 私はスープを求め、箸とレンゲでチャーシューをかき分けていった。  その先に現れたのは、秘境の奥地に隠された透き通る水面。この透明な物は何なのだろうか。レンゲでどこをすくい上げようと紛れこんでくるだけではなく、レンゲその物までをも輝きをまとわせるのだ。  これは言うまでも無く、油である。  ラーメンはコッテリよりあっさり派の私。近年になって特にコッテリは苦しく、カップ麺に付属してあるスープも一旦冷凍庫に仕舞って調味油部分を固めてからそれらが一切入らないようにするくらいだ。「それではラーメンの魅力が半減だ」とか「そんな物ラーメンですらない」と呆れられた事もあるが、そうなのかもしれないだろう。  つまりどういう事かといえば、そもそも私はラーメン自体さほど好きでは無い。  そして、このチャーシュー麺……食べたくない。 「ほら、やるよ」  あげくヤクザは自らのラーメンから2枚のチャーシューを私の器へと乗せてくれるのだ。勘弁してほしい。  だが精一杯の償いだ。  拒否など出来ない。  覚悟を決めて食べるとしようではないか。もしかすると見た目に反して美味しいのかもしれない。  そう言い聞かせ私は、借金取りからのオゴりという不可解の食事を始める。  チャーシューを口に含むと、まるで角煮のような柔らかな食感と共にジュワっと出てくる肉汁に卒倒しそうになり、麺をすすれば油に裏付けされた喉越しのお陰でそのまま戻ってくる勢いに白目をむき、これから私を苦しみに包まんとする餃子に目を遣ればその羽に天使の幻覚がこちらへ優しく微笑み、このまま召されるくらいにとにかく苦痛だった。  そんなこんなで苦労して何とかようやく食べ終えようとしていた時である。
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