第1章

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「ヘイお待ち」  目の前にチャーハンが置かれたのである。  忘れていた。コイツがいた事を。  そいつは店内の薄明りを受け、一粒1粒がパラパラと踊りだしそうなぐらいに輝いていた。米粒ごとにそれぞれ油をまとっている証拠だろう。店主の技量に恐れ入る。おかげで見るだけでも胃がもたれそうである。とっくにもたれているけども。 「あ~ぁ……」  脂っこい物ばかり食したうえ更に控えたギトギトチャーハンを眺めて私はため息を、つこうとした時だった。  ヤクザの彼がため息をついたのだ。 「どうしたんですか?」  思わず私は尋ねてしまう。  ハッキリ言って、よそ様の愁いなどに興味は無い。  だがそれがヤクザだと少々気になってしまう物がある。何たってヤクザは愁いを生む側である。何を大層に悩む理由があるというのだ。  そんなヤクザの彼は、私の問いに応えるよう口を開く。 「俺だってなあ、好きで取り立ててる訳じゃねえんだよ」  聞くまでもない。  そんな仕事とも言えない行いに誇りを持ってもらっても困る。 「だったら、そうじゃない仕事に就けば良いじゃないですか」  答えは簡単だ。こんなのは自ら言葉にしながらもわざわざ発する意味も無い。  しかし、私の言葉にヤクザの彼は首を横に振った。 「あんちゃんなあ、誰でもカタギの仕事が出来るわけじゃねえんだよ」 「そうですか? 学歴とか、どんな経歴でも仕事ぐらいは普通に――」 「まあそう思うもんなんだろうな」  私の言葉を、ヤクザは分かりきった事のように遮る。 「普通か……」  それから箸を止め、そう呟くヤクザの彼。  彼は、私の発した“普通”という言葉に対して僅かだが表情を曇らせた。  嫌悪を滲ませつつも、それは初めて出くわした時の剥き出しな怒りという物ではない。諦めや困憊という物だろうか。  そう巡らせている私を察してか、彼は語り始めた。
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