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呼び止められて、振り返るとそこにはほっぺを膨らませたリコの顔があった。少しだけ釣り上がった、でもクリッとした黒目がちな目が、こちらの顔を捉えている。眉間に皺が寄っている。リコが本気で怒っている証拠だ。
「どうしたの?」
たじろいだ僕は、そう言い返すしか方法が思いつかなかった。それでも彼女の反応がない。ごめん。僕、何かした? 慌ててそう付け加えた。
「どうしたの、じゃないでしょ。何かした、でもない。何度も何度も呼びかけてるのにムシするから怒ってんの」
職場の階段。その丁度踊り場で向きを変えるところで、リコの存在にようやく気づいた。
真っ直ぐ僕を見る彼女の視線が痛い。しくじった。手遅れ。咄嗟にそう思う。
リコと朝から小さなケンカをしてしまっていた。本当に些細なケンカだ。いや、そもそもケンカの理由なんて些細なことがほとんどなのかもしれない。
とにもかくにも、そのことがずっと頭から離れない。今日ずっとボーッとしてませんか? 同僚から何度もそう言われていた。
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