第1章

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 弟がいた。  足の速い奴で、スポーツ番組は何でも好き。中でも陸上関連の番組が好きで、正月は食い入るように駅伝を見ていた。 「たすき渡すのかっこいいよなー。俺も大きくなったら駅伝選手になりたいな」  そう言って目を輝かせていたけれど、弟は小学校すら卒業することなく事故で死んだ。  その翌年から、家族の誰も、なんとなく駅伝は見なくなっていたけれど、今年は久しぶりにと、TVをつけて驚いた。  歩道に集まる応援の観客達。その中にはたまに、選手達のように自分もと、歩道の隅を走っている人がいる。  画面の片隅に映り込む、それは確かに弟だった。  他人の空似じゃないと家族全員で直感する。あれは弟だ。間違いなく弟だ。  その証拠のように、小さな少年の姿は、力走する選手と同じ速度で画面に現れ続けているのだ。  しかも、ランナーが変わっても画面が切り変わっても、必ず隅っこに走る姿は映っている。どう考えたって生身の人間にできることじゃない。  怖いとは思わなかった。ただ、誰からともなく苦笑いを漏らした。   「本当に、駅伝選手になりたかったんだな、あいつ」  俺がそうつぶやいた途端、画面の向こうの弟がこちらを見た。そして、Vサインを見せつけながらにかっと笑い、そのまま消えた。  …翌年からも、ウチでは昔のように正月は、駅伝が終わるまでTV画面に映し出されるようになった。ても残念なことに、もう、 走る弟の姿はそこに映ることがない。 並走…完
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