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目の前の野々村も、バタピーつまみながら勝手にビールを煽ってる。
「宅飲み?まさかお前んち?二人きりじゃねーよな?」
立て続けに質問され、軽くアルコールの入った頭がクラリとした。
「俺んちでダチと二人だけど?」
「マジで、お前……。あぁ、これだからノンケは……」
携帯越しに、呟く声が情けない調子にトーンを落として行く。
「あぁ。そういうことか。気にすんな。野々村はマジでダチだから」
安心させるように言うと、電話の向こうのあいつは渋々納得した。
「何ー?やっぱ彼女なんじゃん?」
「違ぇよ」
「んなこと言ったって、どう考えてもそりゃ嫉妬だろうよ。いいな、妬いてもらえるうちが花だぜ?」
嫉妬……?飯田が?
俺は脳裏にあいつの顔を思い浮かべた。
茶色い頭。少し垂れ目気味の目。スッと通った鼻筋に、形の良い唇。
誰がどう見たって、どう考えたって、イケメンのあいつが嫉妬?
「ぷ……。似合わねーし」
肩を震わせて笑ったが、やっぱり胸の奥がフルンと揺れた。
俺をそういう風に想ってくれるあいつ。
会いたいなぁ……。
「行けば?会いたいなら。この時期、もうそんなにゼミもないんだろ?」
見透かしたように野々村が言う。
「……いや。冬休みまで待つ」
「ストイックだなぁ」
何も自分の精神力を鍛えている訳じゃない。
あいつの邪魔をしたくないだけだ。
「なぁ。恋っていいもん?」
ビールの缶を目線の高さまで持ち上げ、それを注視しながら野々村が言う。
「なんだよ。したことあるならわかんだろ」
「……したことねーのかも知れない」
「は?この歳で?」
俺の方がビックリだ。
「あんまり遊びにかまけてたから、本気で恋愛すんの忘れてたかもな」
「……不幸だな」
「なぁ、いいんだろ?」
「まぁ……な」
これ以上恋人の存在を否定するのも今さらな気がして、俺はそう答えた。
「いいなぁ……。なんかちょっとやり残した感じ。社会人になってからでも間に合うかなぁ」
「学生生活はまだ少し残ってるし、社会人になってからだって出会いはある。恋に早いも遅いもないだろ」
何を慰めてんだか。
恋は、素晴らしい。
実際経験してみると、片想いですら、素晴らしいと思う。
共感し、誰かを一心に想うことは、自分の心を強くする。
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