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西山組、事務所――。
「西山の親父。ただ今戻りました」
ドアを開けて入るのは幸太と健司。
「あ?なんだてめぇらは?」
「親父、小林です」
「小林?」
「小林幸太です。勤めを終えてもどってまいりました」
「あ…ああ。小林か。おう、ご苦労さん。いやぁ、大変だったろ?」
「ええ。まぁ」
「ま、まずはゆっくり休んでくれや」
席を立とうともしない西山に、健司が声をかける。
「西山さん。その前に、盃、もらい直させてください」
「あ?なんだてめぇは」
「小林親分の一の子分です」
「子分?おい、幸太。勝手に子分てなぁ、どういうつもりだ?」
「失礼しました。時期、子分です。小林組長の若頭をやらせてもらう予定です」
「組長だと?小林、てめぇ、どういう了見だこれは」
「西山さん。どういう了見だ、はこちらの台詞ですよ。うちの親分が熊虎のタマとる前にお約束されましたよね?」
「なんのだよ?」
「おや、お忘れですか?出所したら組持たせてやるとおっしゃったんじゃないですか?」
「しらねぇな。そんな事言ったっけ?おい、誰か覚えてるか?」
西山が事務所内の一同を見回す。みな、ニヤニヤしながら一様に首を振る。
「残念だったなぁ。勘違いじゃねぇか?」
「そうですか…」
その時。ドアを開けて入るもう一人のカゲ。
「おう、兄弟。勘違いじゃぁ困るなぁ」
「き、木村の兄貴…」
「はは。まぁ、そう固くなるなや」
「どうして兄貴がここへ?」
「いやな、塀の向こうで幸太には世話になってな」
「こ、幸太に…」
「ああ。さっきな、出所を祝って、幸太と俺とは五分の兄弟になったわけよ」
「ご、五分!?」
「そうだ。な?わかるだろ?俺の五分の兄弟がお前の下じゃぁ、俺の見栄も悪かろう?」
「し、しかし…」
「しゃらくせぇ!組もたせるったぁ、てめぇが言ったんだろ!」
「へ、へい」
「だったら責任もちやがれ」
「へぇ…」
「なさけねぇ返事だな、おい。小林の兄弟。こいつに盃返してやれ」
幸太は懐から盃を取り出す。
「すみません、親父…。いや、西山さん。お世話になりました」
「会長には俺から言っておく。いいな、西山。てめぇは口だすんじゃねぇぜ。幸太の後見人は俺だからな」
「…へい」
静まり返る事務所内。
肩を落とす西山を残し、幸太たちは事務所を後にする。
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