5.旗揚げ

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西山組、事務所――。 「西山の親父。ただ今戻りました」 ドアを開けて入るのは幸太と健司。 「あ?なんだてめぇらは?」 「親父、小林です」 「小林?」 「小林幸太です。勤めを終えてもどってまいりました」 「あ…ああ。小林か。おう、ご苦労さん。いやぁ、大変だったろ?」 「ええ。まぁ」 「ま、まずはゆっくり休んでくれや」 席を立とうともしない西山に、健司が声をかける。 「西山さん。その前に、盃、もらい直させてください」 「あ?なんだてめぇは」 「小林親分の一の子分です」 「子分?おい、幸太。勝手に子分てなぁ、どういうつもりだ?」 「失礼しました。時期、子分です。小林組長の若頭をやらせてもらう予定です」 「組長だと?小林、てめぇ、どういう了見だこれは」 「西山さん。どういう了見だ、はこちらの台詞ですよ。うちの親分が熊虎のタマとる前にお約束されましたよね?」 「なんのだよ?」 「おや、お忘れですか?出所したら組持たせてやるとおっしゃったんじゃないですか?」 「しらねぇな。そんな事言ったっけ?おい、誰か覚えてるか?」 西山が事務所内の一同を見回す。みな、ニヤニヤしながら一様に首を振る。 「残念だったなぁ。勘違いじゃねぇか?」 「そうですか…」 その時。ドアを開けて入るもう一人のカゲ。 「おう、兄弟。勘違いじゃぁ困るなぁ」 「き、木村の兄貴…」 「はは。まぁ、そう固くなるなや」 「どうして兄貴がここへ?」 「いやな、塀の向こうで幸太には世話になってな」 「こ、幸太に…」 「ああ。さっきな、出所を祝って、幸太と俺とは五分の兄弟になったわけよ」 「ご、五分!?」 「そうだ。な?わかるだろ?俺の五分の兄弟がお前の下じゃぁ、俺の見栄も悪かろう?」 「し、しかし…」 「しゃらくせぇ!組もたせるったぁ、てめぇが言ったんだろ!」 「へ、へい」 「だったら責任もちやがれ」 「へぇ…」 「なさけねぇ返事だな、おい。小林の兄弟。こいつに盃返してやれ」 幸太は懐から盃を取り出す。 「すみません、親父…。いや、西山さん。お世話になりました」 「会長には俺から言っておく。いいな、西山。てめぇは口だすんじゃねぇぜ。幸太の後見人は俺だからな」 「…へい」 静まり返る事務所内。 肩を落とす西山を残し、幸太たちは事務所を後にする。
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