11人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前は、根っこが純粋な人間だ。正直すぎるんだよ」
「え?」
「ヤクザのシノギってのは、騙し騙されの駆け引きの世界だ。お前みたいな正直者じゃぁ務まらん」
「ひどいですぜ、親分。たしかに俺はバカだ。兄ぃみたいに頭はよくねぇ。だけど、人を騙すくらいできますよ」
「本当か?」
「ええ。特に、親分みたいな人のいい方が相手だったら、ちょちょいのちょいです」
「言うじゃねぇか、健介」
「へへ。」
「人がよすぎる、か。確かにな…。俺もいつ騙されて命の危機が訪れるかわからん…」
「だからこそ、俺がおそばに付いているんじゃないですかい」
「そうだな」
「何も心配することはありませんよ。兄ぃの事も、親分の事も」
「ああ…」
幸太の心配をよそに健司は順調に勢力を拡大し、着々と小林組の力を高めていく。
3年後、2016年-。
突如起こった事件。
『禿鷹会』若頭の謎の失踪。
同時に、時期若頭の座を約束されていた幹部、木村の急な引退。そして木村の強い推薦により、幸太が38歳の若さにして若頭となる。
「親分。おめでとうございます」
「ああ。健司。お前のおかげだ。ありがとうな」
「はい」
「…なあ、健司。そろそろペースを緩めてみてはどうだ?急いては事を仕損じる、と言うじゃないか」
「何を言っているんですか、親父。小林組はまだまだこれからですよ。この世界でやっていくからにはてっぺんを。会長の座もいずれは――」
「健司。滅多な事を言うんじゃない」
「…はい。すみません」
「まぁ、組を思ってくれていることはありがたい。お前あっての小林組だ。これからもよろしく頼む」
「・・・はい」
最初のコメントを投稿しよう!