6.躍進

3/3
前へ
/22ページ
次へ
「お前は、根っこが純粋な人間だ。正直すぎるんだよ」 「え?」 「ヤクザのシノギってのは、騙し騙されの駆け引きの世界だ。お前みたいな正直者じゃぁ務まらん」 「ひどいですぜ、親分。たしかに俺はバカだ。兄ぃみたいに頭はよくねぇ。だけど、人を騙すくらいできますよ」 「本当か?」 「ええ。特に、親分みたいな人のいい方が相手だったら、ちょちょいのちょいです」 「言うじゃねぇか、健介」 「へへ。」 「人がよすぎる、か。確かにな…。俺もいつ騙されて命の危機が訪れるかわからん…」 「だからこそ、俺がおそばに付いているんじゃないですかい」 「そうだな」 「何も心配することはありませんよ。兄ぃの事も、親分の事も」 「ああ…」 幸太の心配をよそに健司は順調に勢力を拡大し、着々と小林組の力を高めていく。 3年後、2016年-。 突如起こった事件。 『禿鷹会』若頭の謎の失踪。 同時に、時期若頭の座を約束されていた幹部、木村の急な引退。そして木村の強い推薦により、幸太が38歳の若さにして若頭となる。 「親分。おめでとうございます」 「ああ。健司。お前のおかげだ。ありがとうな」 「はい」 「…なあ、健司。そろそろペースを緩めてみてはどうだ?急いては事を仕損じる、と言うじゃないか」 「何を言っているんですか、親父。小林組はまだまだこれからですよ。この世界でやっていくからにはてっぺんを。会長の座もいずれは――」 「健司。滅多な事を言うんじゃない」 「…はい。すみません」 「まぁ、組を思ってくれていることはありがたい。お前あっての小林組だ。これからもよろしく頼む」 「・・・はい」
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加