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((9歳。小学校3年生。))
((俺の人生が順調だったのは、この頃までだ。))
1993年。
東京近郊の住宅街――。
「おい、じゃんけんしようぜ」
ランドセルを背負った小学生が4人。
学校帰りのよくみる風景。
言い出したのは、恰幅のいい坊主頭の少年。名はケンジ。
「なあ、いいだろ、コウタ。負けたやつが子分な。勝ったやつのランドセル、持ってくこと」
ケンジが、有無を言わさぬ態度でチビに言い聞かせる。
「ヤス、ケンスケ。お前らも文句ねーよな」
ヤスと呼ばれたのは4人組の中のノッポ。ケンスケは、ケンジの後ろに隠れる一回り幼い少年。ケンジの弟。
「でも、ケンジくん、いっつも後出しするじゃん」
ケンジに、コウタと呼ばれたチビの少年が意見を述べる。
「あ?しねーよ」
「絶対?」
「ああ。絶対だ」
「嘘だぁ」
「嘘じゃねー」
「わかった。じゃあいいよ」
「じゃあ、いくぜ、じゃんけーん…」
『 ぽんっ 』
「やったー、僕の勝ちだぁ」
コウタと呼ばれたチビの一人勝ち。
「チッ。しゃーねーな。ほれ、ランドセルよこせ」
ケンジはコウタのランドセルを奪い取り、胸の前にかける。
「ほれ、ヤス。お前は体操着の袋、もちな」
「ねぇ、お兄ちゃん。僕は?」
「ケンスケはそうだな…。なんもねぇから、コウタをおんぶしてやれ」
「えー、できないよー…」
「コウタは親分だぞ。文句言ってんじゃねぇ。じゃないと子分にしてやんねーぞ」
今にも泣きだしそうなケンスケ。
「ちょっとケンジ君、いいよ」
やんちゃな弟いじめを見かねたコウタが声をかける。
「ケンスケ君。いいからね」
「えー、でも、僕もコブンやりたい~」
「子分の面倒を見るのも親分の仕事だ。気にしなくていいよ」
「そうなの?」
「おう」
ケンスケが元気を取り戻す。
「チッ。じゃあケンスケは先頭を歩け。敵がいないかよく注意しろよ」
「はーい!」
たわいもない、子供の遊び。
「おやぶん!テキはいませーん」
「よし、しゅっぱーつ!」
((俺が人の上に立ったのはこの時限り…。以来、最低な人生を送ってきた…))
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