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2003年。
東京・六本木――。
繁華街の裏路地。
路上に停められた黒塗りの車の中。
「っきしょ……っそ…んで俺なんだよ……」
ぶつぶつと何事かをつぶやく青年。
「なんなんだよ、俺の人生…」
今、彼の頭の中では、人生を振り返ったショートフィルムが上映されている。
しばし、この男の独白にお付き合い願いたい。
目をつぶる青年。
((俺の名前は小林幸太(コウタ)。歳は25歳))
シーンは回想の中へ。
【東京近郊の住宅街。4人の少年。】
「おやぶん、はやく~」
「うるせぇ、ケンスケ。コウタのペースで歩いてるんだ。命令するんじゃねー」
((俺の25年の人生の中で、人の上に立ったのはこの一度限り))
【小学校の教室】
「えー、小林幸太くんは、来月、東京の学校へ転校します」
「えー、聞いてないよー」
【住宅街。車に乗り込む幸太少年とその両親】
「コウタ。元気でな」
「うん。ケンジ君も元気でね。ヤスオ君も、ケンスケ君も」
ゆっくりと動き出す軽自動車。
「ばいばーい…」
手を振りあう子供たち。
((順調だったのはここまで…))
【別の学校。廊下】
「おい、はやく拭けよ」
幸太少年の足元には雑巾。
「お前の顔がきたねーからよ、俺たちはお前のためを思って拭けって言ってやってんだよ」
「でも…」
「でもじゃねー。できねーんなら俺がやってやるよ」
幸太少年の前に立つ複数の少年のうちの一人が雑巾を手にとり、幸太の顔へ押し付ける。
【ゲームセンター】
「おい、お前、小学生?学校どーしたの?」
格闘ゲームの椅子に座る幸太をとりまく中学生たち。
【線路の高架下】
壁にもたれかかり、腹に手を当て、うつむく小学生たち。
幸太に雑巾を押し当てた少年たちである。
「いいか、幸太をいじめたお前らが悪いんだからな。きちんと慰謝料用意しろよ」
“ドンッ”
「ぐふっ…」
中学生が少年の腹を殴る。
「返事は?」
「は…はい」
「親にチクるんじゃねーぞ。バレねーように財布盗んでこい。わかったな」
「はい…」
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