生はまこと偽物(いかもの)に尽きる

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  「……ッ!」 その感覚には覚えがあって、 思わず桃さまが 逃げないように 体をしならせる。 深くまで 交わったままの私は、 桃さまの強い憤りを ひたすら感じていた。 呼吸が止まりそうな 圧迫の中、 ふっと溜め息を漏らす。 自分の意識が ほんの一瞬だけどこかへ 飛ばされていたことに 気付いた。 こんなに頭も心も体も まっさらに掃除されたような 気分になるのは、 正直初めてだ。 ゆっくりと体勢を崩し、 私の上に倒れてきた 彼を胸に受け止める。 ついさっきまで 私を痛いほどの恍惚に 苛んでいた桃さまは すっかり大人しくなっていて、 そのときをちゃんと 覚えていないことに もったいなさを感じてしまう。 好きな男と いうわけでもないのに、 私は欲張りだ。 .
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