生はまこと偽物(いかもの)に尽きる

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  そうやって幼さを 揶揄されて、 苛立ち紛れに 加速していった私の恋。 乾先生は私を たしなめようと していたけれど、 今ならわかる。 たしなめるのは ふりだけで、 あの人は私が自分から 落ちてくるのを 待っていたんだ。 自惚れなんかじゃない。 あの人は、 私を手に入れようとしていた。 だからみんなが 帰ってしまったあとも 部屋に残っていたし、 意味ありげに窓の外を 眺めていたりしたんだ。 私が、 その背に 触れたくなるように。 そんな気なんて ちっともないふりをして、 私が離れられなくなるように。 寝ることが 大人だと思ったら 大間違いなんて言いながら、 そうするしか なくなるように、 私を導いて。 乾先生の思惑通り、 私は自分から 彼のものになりたいと言った。 .
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