生はまこと偽物(いかもの)に尽きる

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  昨日今日の話ではないから、 知られたくないなんて 私の都合が今さら 反映されるわけがないけれど。 私の憂鬱を知ってか知らずか、 桃さまはつい……と 顎で頬をなぞる。 「だから、 壊してしまいたくなりました」 「……」 「うら若き いたいけな娘さんが、 ちゃんと大人の女性に なっていて」 「10年も経てば、 そりゃあ……」 「……そうなんですけどね」 小さく笑い、 桃さまはそのまま かぱっと口を開けて 今度は私の顎を 軽く含んだ。 「それが、 なんとなく癪で。 あなたが10年前の あの悲惨な恋の影もなく、 私だけは清く正しく 生きています、 という顔をしているのがね」 「お、大人って…… そういうものじゃ、 ないですか」 .
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