生はまこと偽物(いかもの)に尽きる

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  じゃあ今 どうしてこうしてるの、 なんて野暮ったい言葉は 出てこなかった。 だって、 私がすこぶる矛盾に 満ちた女なんだもの。 桃さまだって そんな矛盾に 沈んだ男であっても 仕方がない。 手枷のようなベルトが 巻き付いたほうの手で、 彼のうっすら湿って 乱れ落ちた髪を かき上げてやる。 「想像、 してみてくれますか」 「……私で、よければ……」 体と体を繋いだ 男と女には、 望むと望まざるに関わらず 特別なつながりが 生まれるものだと思う。 特別なつながりを 求めていたのか、 単に欲求をうまく 満たしたかったのか、 桃さまの真意は 知らないけれど。 この人とは、 なにかを共有するだけの 価値はある気がした。 .
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