生はまこと偽物(いかもの)に尽きる

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  桃さまの 涼やかな声の中から、 余裕のない熱が 漏れ出た。 今、 彼は屈んでいるだけで 私には指一本 触れてすらいないのに、 その声だけで ぞくりと体の内側が 粟立つ。 この人がどんな風に 私に触れるか、 知っているからなおさらに。 桃さまの声が、 記憶をリアルに 呼び覚ます。 その記憶が、 私の肌の上にかすかに残る 桃さまの指先を 思い出す。 そうしてまとまらない 意識の中でも、 声で人に触れるなんて あるんだと知る。 「すみません、 突然こんなことをお願いして」 「いえ……」 言われた瞬間、 急に自分の体の感覚が 戻ってきた。 まるで催眠術から 放たれたような気がして、 腰が震える。 .
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