『一人称単数』  村上春樹

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a5573317-bac5-43fe-966b-868039095c04 まず、3作品ほど、これは小説なのかな? というのがあります。 エッセイ?回顧録? 作品の中で、村上春樹だと言っちゃっているので、これは本当に小説なのかなと。 (まぁノンフィクションも小説ですがね。) ヤクルトスワローズの話と、出逢った女性たちの話などです。 ただ確かに村上春樹らしいというか、デビュー作の『風の歌を聴け』を思い出せる書き方で面白いなとも思いました。 このことは何人かの文芸評論家も似たようなことを言っています。(一応、きちんとした書評もチェックしているのです笑) その他の作品では、人生の中で不思議な体験をしたという内容の話が多いです。 これも村上春樹らしいというか、パターンです。 これは僕の意見ですが、以前よりも話が生々しくなった気がします。 もしかしたら、僕が生々しく感じとれるようになったということかもしれません。 実際、二十代前半より若い人が、この本を読んでもキツいなと。(良い評価は得られないという意味です) ここポイントなのですが、(僕独自の意見) 村上春樹さんは、あえて自分が今感じていることを、生々しく語っている、装飾をしない小説を書いている気がします。 これは、この本より少し前に村上春樹さんが自分の父を語ったエッセイを出版したことにも関係しているのではないか、という僕の推測です。 そのエッセイで「父のことは、いつか語ろうと思っていた」という村上春樹さんの言葉どおり、生々しい気持ちを表に出すようになったということです。 それまで村上春樹さんは家族のことは、あまり口にしなかったのですが。(ちなみに僕は本屋でエッセイの表紙しか見ていません。かなり村上春樹さんのエッセイも買って読んでいますが、不思議と今は読みたい気分ではないなと思ったのです。) だけど、よく考えればそうですよね。 村上春樹さんも歳をとったということです。 どおりで僕も歳をとったわけですね笑 また、もともと村上春樹さんはプロットを作らず創作するのですが、物語の展開(起承転結など)で読ませるというより、物語全体の雰囲気で読ませる感じが強くなったと僕は感じました。 その雰囲気は、やはり村上春樹なのです。 この短編小説集の話には昔お付き合いしていた女性の話が出てきますが、村上春樹さんの小説を読むと、僕の場合いつも17歳の時に少しだけ付き合った彼女のことを思い出します。 外見は痩せていて、そんなに背は高くなくて、顔が小さくて、オシャレで、(髪型は、当時流行り始めた女性のベリーショート、しかも金髪)服飾系の専門学校か美容系の学校にいそうなタイプでした。 あまり笑わなくて、そんなに甘え上手な方ではなかったけれど、そんな彼女が少し笑ってくれると可愛くて。 その子が僕に薦めてくれたのが村上春樹さんの『ノルウェーの森』でした。 彼女は幸せに暮らしてるいるのかなとか、今も彼女は本を読んでいるのかなと、ふと思うことがあります。 ふとした瞬間に思い出す人はいますか? 名前も思い出せないけど、小学生の頃にこんな子がいて、こんなことがあったとか。 中学生の頃、高校生の頃。 ある瞬間に小さな記憶のカケラが、細い糸のように遠い過去から時間の中をするするとくぐり抜けて、ふと現れる。 それが優しさだったと気づいたり、ほろ苦い後悔だったり、愛しさだったり。 おわり
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