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『掏摸(スリ)』 中村文則
今回は中村文則さんの『掏摸(スリ)』の紹介です。ちなみに以前紹介した『王国』はこの作品の姉妹編です。両方の表紙の写真を見ると、繋がりを表しているのは明らかですね。
2009年初版発行。172ページ。
2010年に大江健三郎賞受賞作品です。
内容はタイトルそのまま、掏摸(スリ)をしている男の話です。ダークな世界の話ですが、その中にも少しの光がある。と信じたいですね。
気分爽快になるような内容ではありません。
ジャンルは?と問われると、少しだけミステリー要素はあるのですが、ミステリー・エンタメ小説ではなく、ミステリー・純文学なのかなと思いました。中村文則さんは芥川賞作家ですからね。
伊坂幸太郎さんや、直木賞作家の道尾秀介さんはミステリー・エンタメ小説ですが、それを純文学にした感じ。初めて中村文則さんを読む人なら、そうイメージするとわかりやすいかなと思います。
大江健三郎賞を受賞した作家は、大江健三郎さんと公開対談をする特典があるのですが、その内容も少し調べてみました。
大江健三郎さん一人で選考する賞なので、なぜ大江健三郎さんがこの作品を選んだのか気になったわけです。
理由の一つとして、作家独自の文体が現れている作品ということ。それはアルベール・カミュを思い起こさせるとのこと。(『ペスト』や『異邦人』などで世界的に有名なフランス人作家)僕はカミュは昔から大好きなので、何となくわかる気がしました。
もう一つの理由は、本作品ではスリの手の動きなどが細かく描写されているのですが、一つのことを極めるという部分の文章を評価していました。
また、子どもに読ませたい作品でもあるという理由も挙げていました。つまり未来に伝えたい作品であること。
これはネタバレになるので、あまり詳しくは書きませんが、子どもが作品に登場します。その子どもと主人公の描写のことだと思いました。
簡単にしか書けませんでしたが、これが対談で言っていた大江健三郎さんが『掏摸』を評価した理由です。
『王国』との繋がりですが、同一の登場人物がいることと、深いところでテーマは同じということでしょう。『王国』では『掏摸』の主人公と接触するところが一瞬あります。ファンはとしては、嬉しいというか、ニヤリとする部分ですね。
短いので読みやすいですし、充分に満足した内容でしたが、僕としては中村文則さんの長編も読んでいるので、もっと欲しがる自分がいましたね。
すっかり中村文則さん中毒かも。笑
おわり
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