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呼び止められて、振り返るとそこには…
『お、親父…どうしてここが…?』
いるはずのない父親が、しかもこんな真夜中に、そこに立っていたのだから驚いた。なぜなら…
俺はこの人に5年前勘当を言い渡され、家を飛び出したまま、居場所も
知らせていない。なのにどうして…
『久し振りだな。元気にしてるか』
『だから、どうしてここがわかったんだ?!』
『そう喧嘩腰になるな。まあ、そこの屋台で一杯飲もうじゃないか』
屋台…?
ふと見ると赤提灯をぶら下げたおでんの屋台が出てる。
こんなとこに屋台なんて、いつも出てたっけか?
『どうだ、役者の方は芽が出そうか?』
そう、これが原因で勘当された。
我が家は三代も続く、とある地方の政界で名を馳せている家柄だ。
曾祖父は、町長を五期務めた強者で。
その地盤を引き継いだ祖父は、さらに県会議員議長まで上り詰め、地元には功績を記した石碑まで建っている。
後を継いだ父も市会議員議長の重責を担っている。いずれ市長に打って出るだろうと、地元から大いに期待されている人物だ。
いわゆる世襲議員の一家なのだ。
当然、長男として生まれた俺は、その四代目として目されていた。もう一人の後継者でもある姉は、高校の教師を天職として早々に土俵から下りているから、その政治地盤や資本の相続権は俺一人に集中するわけで…
だからそうあらねばならないと、大学も法学部に入って、親父の選挙の度に秘書のような役割をこなしてきた。
時には選挙カーに乗り込み、
「有権者の皆様、なにとぞ父を!」
と、ウグイス嬢を…いや、男性がマイクで候補者の名前を連呼する場合、それを「カラス」と呼ぶことを知っているだろうか。
とにかくなんの疑いも持たず、自分の将来のためにと責務を果たしてきた。
ところが…
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