蛙の子はカエル

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これほどまでに自由に、そして正直に己を表現できる世界があったのかと、強く魅了され。そしてそれは、政治家とは180度違う世界だった。 で、勘当された。 『二度と敷居を跨ぐな!』 そう言われて。 以来、実家とは完璧に連絡を絶って生きてきた。脇目も振らず演劇一本で…と言えばカッコは良いが。結局、劇団は方向性の違いから、入団して3年で解散。今はある舞台制作者の紹介で、小さな事務所に所属し、通行人などのエキストラや、チンピラの殺され役。再現ドラマなどに出演して、細々ながらと役者を続けてはいるが、主生活はコンビニのアルバイトで成している。 それでも政治家になるより、夢があると信じて頑張っている。そんな最中、親父が現れたのだ。 『だから、どうしてここがわかったんだよ!』 『政治家の情報網をなめるなよ』 そう言いながらも、親父の顔は笑みに溢れている。 『俺は帰らないからな!』 『喧嘩をしに来たんじゃない。ただ、一言お前に言っておきたいことがあるんだ』 『な、なんだよ』 『その前に、好きなものを注文しろ。どうせろくなものを食べてないんだろう』 『余計なお世話だ』 『店主、適当に見繕って盛ってやってくれ。それと熱燗を二本』 そう注文すると、俺の肩に手を置き、 『痩せたか?』 『なんだよ、気持ち悪いな。それより、言いたいことってなんだよ』 『蛙の子はカエルってことだよ』 蛙の子はカエル……? 『父さんが大学生の頃にな、友だちに誘われて、演劇部の公演を観に行ったことがあるんだ』 こんな堅物の親父が…演劇を? 『それはそれは面白かった。ただな、その舞台に出てたヒロインが美人でな…まあ、一目惚れってやつだな』 何が言いたいんだよ。まさか、自分の過去をわざわざ喋りに来たわけじゃないだろう。 『それからと云うものは、彼女が出る公演は欠かさずに観に行ったもんだった』 『なんの話をしてるんだよ。俺に何が言いたいんだよ』 『その彼女が、お前の母さんだよ』 『え?』 『蛙の子は…やっぱりカエルだったな。 血は争えないとは、このことだ』
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