探偵日記1  宮沢賢治 ーミヤザワケンジー

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普通の人なら言わない事を至って真面目に言う賢治にごろつき達は少しの間あっけにとらわれていた。 が、しばらくして自分たちがからかわれていると思い激怒した。 この時、賢治は本気で言っていたのだが・・・まぁ仕方ないだろう。 「なめてんのかお前!なんじゃ、その態度は!」 左側のごろつきが賢治の胸倉を掴み、大声で怒鳴る。 賢治達を避けて端を歩いていた人達はその怒鳴り声に驚いてすくんだ。そして恐るおそるこちらを見る。 その視線に気づいた右側のごろつきが「見世物じゃねぇぞ!」と一喝すると蜘蛛の子を散らすように早足でどこかに行ってしまった。 もともと白昼堂々と歩いているのは仕事をせずに親のすねをかじっている臆病者が多い。 興味本位で見ていたのだろう。 「邪魔な通行人達はもういないぜ。俺達をコケにしてくれたこと後悔させてやる・・・覚悟しやがれっ!」 リーダ格の男が賢治の顔面めがけて拳をおろす。 が、その拳は何者かによって阻止された。 「「「なんだとっ!!!」」」 予期せぬ事が起き、戸惑うごろつき達。 賢治の整った顔を救ったヒーローは背中と前に子供を抱っこしている中肉のオバちゃんだった。 右手には大きくへこんだ大根を持って・・・ごろつきの拳を阻止したのはその大根だろう。 そのオバちゃんの正体は―――― 「あっ、大家さん。こんにちはー。」 胸倉を掴まれて身動きできない賢治が笑顔で言う。 そう、正体は『長屋のドン』と呼ばれ家賃滞納者から恐れられている大家さんだった。 この大家さんの手にかかると家賃滞納者はすぐ金を持って家賃を支払うらしい。 その華麗なる手捌きを見た同業者からは『大家の神』として崇められている。 そんな『長屋のドン』または『大家の神』と言われる人に怒鳴られたら、鬼だって逃げ出すに違いない。 現にごろつき達は賢治をぽいっと投げて、兎のような速さで逃げてしまった。 尻餅ついた賢治に手を差し伸べて助け起こす大家。 普段から無愛想な彼女だが、実は優しいということを賢治は知っている。 「ありがとうございます。でもここに来るなんて珍しいですね。いつも井戸付近にいるのに・・・どうしてここに?」
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