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「だめだめ、いつ男イタコとして人前で披露することになるかわからないんだから今の内に失敗しておかないとね」
そんなぁ、愚痴を漏らす黎太郎をよそに、祖母ミエ子は一つ咳払いをした。
「まず、名前は妹尾白子(せのうしろこ)。享年17歳の、道ならぬ恋する乙女だそうな」
「そんな故人を辱めるような…。でも、それじゃあ妹尾さんが僕の背後霊になってるのは、その道ならぬ恋っていうのが叶わなかったからってこと?」
「そういうことになるねぇ。となると、白子ちゃんの片思い相手に思いを伝えてやることが、白子ちゃんを成仏させられる手段だね。簡単で良い事だ」
「簡単って…その片思い相手はどう探せばいいんだよ。妹尾さんがいつ亡くなったのかもわからないのに。片思い相手だって、県外にもしいたら探す手段が…」
考えられる懸念を述べていくと、ミエ子はにやりと意地の悪い微笑みを浮かべた。
「安心なさい、黎太郎の口寄せは完璧だ。時代まではわからなかったが、どの学校にいたのか、またその相手がどんな名前だったのかもきちんと代弁しておったよ」
「ほ、本当!?」
「うむ。しかもその学校、お前の通ってる学校だそうな。おーじーってやつだね」
奇跡。その一言しか思いつかないほどピンポイントな情報だった。黎太郎はもう一つ決定的な答えを聞き出す為に、祖母に向かって身を乗り出す。
「で、婆ちゃん!その相手の名前って何!?その人もOBだとしたら、先生方に聞けばわかると思…!」
「ああ、先生方というよりは、先生に直接言ったほうが良いと思うよ」
黎太郎の言葉を遮った祖母の言葉に、彼は面食らった表情を浮かべた。
「えっ」
「保健体育の教員・五里雷蔵(ごりらいぞう)。それが彼女の片思いの相手さ」
「えっ…えぇーっ!?あのゴリにぃぃぃ!?」
五里先生は保体の授業を受け持ち、また空手部の鬼顧問として知らない物はいない恐ろしい男である。40代を越えてなお健在の分厚い肉体とケツアゴに無精髭の強面は発達途上の肉体の生徒を震えあげさせ、校舎を震撼させるような怒鳴り声とプレッシャーは札付きの不良も一晩で更生させる、陰で「魔神ゴリ」と呼ばれ恐れられる恐怖の権化に、そのうら若くして亡くなった可憐な少女は恋をしたというのか。美女と野獣と呼ぶのもおこがましい、子猫とプレデターと呼ぶべきその組み合わせに驚きを隠せるはずがない。
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