多々良黎太郎と背後霊の恋

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~*~ 時が経ち、放課後。実質6時間程度の授業が永久のように感じた黎太郎はため息を一つつくと憂鬱な面持ちで教室を出た。背後霊の少女がずっとそわそわと話しかけてきて集中できなかったというのもそうだが、それ以上にこれからやらねばならない事を思うと憂鬱でしょうがないのだ。何を隠そう、大して面識もない上苦手意識しかない五里先生に会いにいかねばならないからだ。 しかし、朝早くに職員室に忍び込んで彼の机の上に手紙を置いてきてしまった以上もう後には引けない。押しかけ背後霊のせいというのが癪だが、それでも男らしく腹を括った黎太郎は歩を進める。全てはこの、道ならぬ恋に未練を残した可憐な背後霊のために。彼の肩から提げている鞄の中には、祖母からしっかりと託された口寄せの道具が詰められていた。 ~*~ 校舎裏で待ち合わせ、というのは妹尾たっての希望である。日光も校舎で遮られ、タンポポやら変なキノコやらが好き放題に生えて、しかし開校当初から植えられている記念樹だけが毅然と屹立するその場所は、小説やゲームなどでは告白の定番スポットとはいえ少々ムードに欠ける陰気な場所であった。 だが、こんな場所だからこそ今なら人目が少ない。校舎裏を選ぶ心理というのも、実際には人目に着かないからなのだろう。そこへたどり着いた黎太郎は鞄を開けると、数珠と和紙を取り出した。今はまだ幸いにも五里の姿はない。ならば今の内に口寄せをするしかない。そう覚悟を決めた黎太郎は足元に鞄を置くと、数珠を掌で擦り合わせた。 この場を他人に見られたらどんな奇異の目で見られるのか気になったが、そんな邪念はすぐに消え去った。集中力を高め、和紙に記された口上を述べていく。一言一言を口にするたびに瞼が重くなる感覚に襲われたが、それでも耐えて呪文を唱える。背中の重さが薄れ、その代わりに体内に重さと寒さが波紋のように広がって行くのを感じた。まさにこれこそ妹尾の「重み」、妹尾の「体温」。降霊に成功したのだ。しかしその成功を実感した瞬間、またしても彼の意識は途絶えてしまうのだった。 ~*~ 午後四時、件の人・五里雷蔵がジャージ姿で校舎裏へとやってきた。柔道部員には遅れる旨を伝え、準備は万全だ。彼自身、普段はこんな悪ふざけに構っているほどユーモアのある人間ではない。むしろ今回もまた、冗談だったら怒鳴ってやると意気込んでいるほどであった。
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