第1章

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第1章

1 地球への帰還  シズオの地球への生還の第一印象は「湿気が凄い!」だった。宇宙服の湿度調整は完璧のはずだから、それは視覚を通しての印象が混入しているのだろう。 「体が重いなぁ」  それが実際の感覚だ。だがそれは当初から予想されたことだ。宇宙船の重力0.7Gは、地球の重力1Gより、低く設定されていたからだ。 「これが、2万5000年後の地球、嘘だろ……」  それは隊員共通の想いだったろう。だが、その数値が間違い無いことは誰も理解している。ランドサット調査船での地球の地軸のズレから、彼らは祖先が地球を出発してから2万5000年後の地球に帰還している。  シズオは先祖が地球から持参した古地図を手にしている。それによると大陸移動のよる緯度、経度のズレを考慮すると、現在地点は、日本国の関東平野西端の日光の半月山の山腹に該当すると推定される。おそらく正面の噴煙をあげる山は古地図の男体山である。古地図では、山頂標高が2484メートルであるが、実測ではざっと4000メートルはある。 「凄い隆起だ」  おそらく山頂の猛烈な噴煙から推定すると、ここには激しい火山活動が有った。また眼下に広がる湖も大きい。 「これが中禅寺湖?こんなに大きくなっている!」  シズオの隣にいた親友のケンが声を上げた。 「雨が多いんだよ。この山脈に雲がぶつかって大量の雨を降らせるんだね。山の斜面に植物がいっぱいだよ。凄いね。ワクワクだ」  隊員のシュイが会話に割り込んだ。彼は宇宙船随一の地球植物通という変わり者だ。 「霧だぞ!」 シズオの脳を直撃する声が胸部から響いた。それは間違いなく、胸部に移植された人間脳ソウの声だ。つまり、シズオには2つの脳が存在する。 この人間脳は地球探検前に移植され、2つの脳は互いに干渉しないように完全隔離されたはずだが、その感情が激しくなると、それが漏れ出して来る。
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