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あれは五年前の夏だった。
「コウちゃん、ごめんね。わたし、アメリカに行かなくちゃいけなくなったの」
ハルカが、伏し目がちに、そう告げた。
ハルカは俺の幼なじみだ。家族ぐるみの付き合いがあって、物心ついたときにはお互いが遊び相手になっていた。
俺達は、いつも一緒に遊んでいた。春にはお花見、夏はお祭り、秋はスポーツ、冬はスキーと、何をするにも二人一緒だった。
ただ、その年の夏はハルカが体調を崩してしまったため、お祭りには行けなかった。代わりに俺が、お祭りの屋台で売ってるような食べ物を手作りして、差し入れてやったのだけれど、ハルカは遠慮なく不味いと言ってきた。あのときは大喧嘩になったっけ……。
でも、そんなハルカが、いつも一緒にいたハルカが、遠くに行ってしまう。すぐには会えない場所に行ってしまう……。
「……いつ帰って来んだよ?」
俺はぶっきらぼうに尋ねた。
「わかんない……。でも、絶対すぐに帰ってくる。約束する」
本当は、泣きたかった。いかないでって言いたかった。でも、そんな本音を出すには、当時の俺は、あまりにも子供すぎた。
「……約束だぞ! 絶対だぞ!」
「うん、約束」
「すぐ帰ってこなかったら、俺の(…………)をなめてもらうからな! わかったか!」
「……もう、コウちゃんってば」
こうして、照れ屋でクソガキだった俺は、あまりにもくだらない約束を最後に交わし、ハルカに別れを告げた。
そして結局、約束は果たされずに、ハルカが帰ってこないまま、長い月日が経っていった。
そんな青臭い少年時代も終わり、俺が16になった頃。
ハルカが、五年ぶりに日本に帰ってきた。
当然、俺は彼女と再会する事となった。
えぇ、期待していますとも。
なめてもらえるのを期待していますとも。
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