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「……美味しい……。美味しいよコウセイ君!」
「ほ、本当か? 本当に美味いか?」
「うん。このキャラメル、甘くてすごく美味しい!」
「よ、よ、良かったあぁぁぁ~~~……」
俺は緊張が解けて、へなへなとその場に座り込んだ。
五年前、ハルカは体調を崩して夏祭りに行けなくなった。当時のハルカは食いしん坊だったから、屋台の飯が食べられないのを残念がっていた。
ハルカは、お祭りの屋台でキャラメルを買って食べるのが特に好きだった。キャラメルなんて、駄菓子屋でいつでも買えるんだから、わた菓子やたこ焼きを買えばいいのに、ハルカはキャラメルを一番たくさん買って、お祭りが終わるまでずっとなめていた。
だから俺は、お祭りに行けないハルカに、キャラメルを差し入れてやることにした。でも、どうせなら手作りの方が喜んでくれるだろうと思って、料理なんかしたこともなかったくせに、ガキらしい無謀な挑戦をしたのが失敗だった。結果的に、大量の苦い失敗作を持って行き、大喧嘩になってしまった。
「……フフフッ」
突然、ハルカがクスクスと笑い始めた。
「な、なんだよ……」
「コウセイ君、様子がおかしいと思ったら、私にキャラメル食べてほしいだけだったんだね。それくらい、恥ずかしがらずにはっきり言えばいいのに」
「う、うるさいな……。いいだろ、べつに」
ずっと、こうなる日を夢見て、頑張ってきたのだから。
それに、残された時間も、もう僅かしかないのだ。
もうハルカが、夏祭りに、浴衣姿で外を歩いて、キャラメルをたくさん食べることはない。
彼女の命は、次の夏が来るのを待たずに、その短い役目を終える。
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