子供の頃のあの約束

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この五年間、ハルカはアメリカの最先端の医療技術で難病と闘ってきた。詳しいことはわからないが、世界的にも相当珍しい病気らしい。 五年間、治療と回復と再発を繰り返し、それでもくじけずに闘って、闘って、闘って……。それでも病気には勝てず、最期まで闘い続けるよりも、彼女は産まれ育った土地でゆっくりと最期を迎えることを選んだ。 「なあ、彼氏、アメリカに置いてきて良かったのか……?」 俺は遠慮がちにハルカに尋ねた。 「色々と話し合ってね、お別れしてきたんだ。彼にも幸せになってもらいたいし」 「それで良かったのかよ?」 「ふっふっふー。私も花のJKですから。飽きた男は捨てるのです」 「ひでぇ奴だな」 「ねぇ、コウちゃん」 「ん?」 「また、キャラメル作ってね」 ハルカは、ニコッと笑って、そう言った。 本当は、泣きたかった。いかないでって言いたかった。でも、そんな本音を口にできるほど、俺はもう子供ではいられなかった。 そう、結局のところ、子供であろうが、そうでなかろうが、本当の気持ちなんて、俺には言えはしないのだ。 今も昔も、恥ずかしがり屋の俺にできるのは、ガキみたいで下らない約束を交わすことくらいしかないのだから。 「あぁ、また作るよ。約束だ」 「うん。約束」 「だからお前も、たとえ俺が失敗して苦いやつ持ってきても、ちゃんと全部なめろよ。約束だぞ」 「えぇ~、それはどうしようかな~」 「だめだ、約束だ」 俺は、右手の小指を立てて、ハルカの目の前に突き出した。 「もう、コウちゃんってば」 ハルカは、自分の小指で、俺の小指を握り返した。 それは、今にも折れそうなほどに痩せ細っていて、色が薄くて、弱々しい指だった。 でも、その時、一瞬だけ感じた微かな温かさを、俺はいつまでも忘れたくないと思っていた。 END
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