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どれくらい経ったのだろう。重いまぶたを無理矢理に動かすと、鈍い光と共に見覚えのある赤い髪が揺れていた。
「理事長!」
目を覚ましたノエルに、アディはすぐに気づき、近くに寄る。
「あ、でぃ……俺、は…どれくらい…」
「半刻ほど。アオフシュタントの方々は元来た道へ戻りました。おそらく、そちらの道がスラムの地下街へ続いているものかと」
「そうか…」と答えつつノエルは上半身を重そうに起こす。
それを支えつつ、アディも補助を行う。
「…一応、精神安定の治療の後、怪我の方も治しておきました。勝手にすみません」
アディのその言葉にハッとしたように自身が怪我をしたはずの箇所を見渡す。
切り傷が出来ていた部分は服こそ切れたままだが、傷跡もなく、蹴られて打撲した部分も痛みがない。
「いや、かまわないよ。むしろありがとう」
ノエルは礼を言うがどこかいつもと様子が違う。笑みもぎこちなく、落ち着きがない。
その様子を察したのか、「理事長…?」とアディが声を掛けると、ノエルは重々しく、口を開き始めた。
「…どうして、止めた。」
「どうして、とは?」
「聞いていただろう?アイツらは…俺の父の、仇だ。そしてアオフシュタント自体が市民を脅かす存在だ…そんな奴らをどうして、逃がした!」
その直後、
ぱしんっ!、と渇いた音が鳴り響いた。
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