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カツン、と蹄の音が鳴り、ノエル、ウルフィー、暁の視線が自分に集まったのを確認したのち、すうっと息を吸い、鈴の様な音が響く。
澄み渡るようなソプラノ。
ひどく優しい子守歌がホールを包む。
これがアディの能力、healing voice。
「ア、ディ…やめ………」
激しい目眩に襲われているのか、赤紫がかり獣のように瞳孔が開いた瞳は、次第にうつろになり始める。
第二節まで歌い上げると、ノエルは膝から崩れ落ち、床に倒れ込んだ。
それを確認し、すぐさまノエルのそばに駆け寄る。
脈は正常。酷い錯乱状態にあったため、精神を落ち着けさせる子守唄は効果絶大だったようだ。
「これを聴いて、効果があるのは理事長だけではないですよ、アオフシュタントの方々?」
星座の能力は、流星の血を引いているアオフシュタントにとっても毒。
つまり、先ほどの子守歌で多少なりともウルフィーと暁にも影響が出ているのだ。
案の定、気絶までとは行かなかったが、頭を抑え、忌々しそうにアディを睨みつけているウルフィーと、それを支える暁がいた。
「…ウルフィー、どうしますか」
「……引くぞ、暁」
自分の予測と反した返答にかなり驚いたのか、珍しくウルフィーに聞き返す。
「いいんすか、今なら…」
「気絶してる相手倒したって俺の気持ちは晴れねえ。それに、ガキなんざいつだって殺せる…いいから、運べ」
少し、納得のいっていない顔だが「…了解っす」と一言。軽々とウルフィーを担ぎあげ、来た道を戻っていく。
アディはその二人の去る姿をじっと見続けるだけだった。
こうして、先ほどまでの戦闘の激しさは残り香となり、ホールは静寂に包まれた。
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