月夜の晩に空を渡るもの

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月子の頬を、涙が伝う。 「私はあなたの前から姿を消します。」 「そんなことを言わないでくれよ、月子。絶対に君を離したくない。」 「ダメなんです。そうしないと、私は、あなたを取り込んでしまうから。 未来、人は、なめくじから人の姿をした物を作りました。そう、私の本来の姿はなめくじです。 気持ち悪いでしょう?私のいる未来は、人となめくじから作られたダミーが共存しています。 何のために作られたかというと、所謂なぐさみ物です。だから、ダミーのほとんどは、女性です。 性犯罪の増加から、国策としてダミーの製造が許可されたのです。倫理上の議論もありましたが、 私達ダミーは人ではないので、問題なしとされました。ところが、ごくまれに、人格を持つダミーが 現れるようになったのです。それは、人の愛着が強ければ強いほど、その傾向は顕著でした。 そして、私も。」 そこまで、一気に話すと、また月子は涙をこぼした。 「ずっと一緒に居よう。」 男はヌルリとした、月子の手を握ろうとすると、月子は慌てて手を引いた。 「ダメなんです。蒸発の時期が来れば、私はきっとあなたを取り込んで、一緒に気化してしまうことでしょう。 その現象が元で、私達ダミーの製造は中止されてしまったのです。しかし、私達の原始である、主様が密かに どこかの森で生き延びていて、そこへ空を渡り帰ることで、また私達は生み出されて行くのです。 私が生み出される時、どこかの時空の歪に生み出されてしまい、恐らく過去へと飛ばされてしまったのでしょう。」 「そんな話は信じない。月子、行かないで。」 男は月子を抱きしめた。 「ダメダメダメ!」 月子がいくら叫んでも、男は月子を離さなかった。 月子と男の姿が、眩しい光に包まれた。 体が解けていく。解けていく。 月夜の晩を無数の水が渡って行く。 空は随分と水分を含み、やがて小さな霧雨となって行く。 土を濡らす。葉を濡らす。 そして、また月が空に上る頃。 無数のなめくじが、地を這い、草を這う。
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