招待選手

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「だってさ、待っていてくれ宣言が有効なのか無効なのかくらいは知っておきたいよ」   「いや……」 窮鼠(きゅうそ)猫を噛む。 当然、そんな展開にはならなかった。 しかし、だからといって猫に食われることにもならなかった。  聞き慣れた通信音に救われたのだ。 ツーツー 「琥珀のボイチャ鳴ってるよ?」 「ああ、誰だろう? 名前が出ないんだけれど」 着信表示に相手の名前が出ないことなど初めてだった。 猫が俺の腕時計を覗きこむ。 「本当だ。バグかな? とりあえず出てみれば?」 俺は彼女の提案に乗ることにした。 いや。窮地を脱するには提案に乗るしかなかった。 「はい」 「はじめまして。アポフィライトのサブマスターをなされている琥珀さんのボイスチャットでお間違いないですか?」 相手の声は男のものだった。 「はい。そうですけれど、どちら様ですか?」 「失礼致しました。私はライフォールオンラインのゲームマスターを担当している絹塚(きぬづか)と申します」 「ゲームマスター?」 「ええ。このゲームの運営側の責任者みたいなものですよ」 「それはわかりましたけど、ゲームマスターである絹塚さんが俺になんの用ですか?」 あまりに突然のことで少し失礼な物言いになってしまった。 「ええ。琥珀さんは一ヶ月後に行われる公式PB大会のことをご存知でしたか?」 「ええ。さっき知りました」 「それは重畳(ちょうじょう)です。実はその大会の招待選手に琥珀さんが選ばれましてね。それで、参加の可否はともかく取り急ぎご一報をと思った次第です」 「招待選手? 俺がですか?」 そんな制度聞いたことがないぞ? 「ええ。ライフォール初の試みでしてね。それでどうでしょう。一度お会いして、お話だけでもいかがでしょうか?」 「まあ、話は構わないですけど、ゲームの中でってことですよね?」 「もちろん。我々はライフォールの住人ではないですか。ははは」 「参加するかはともかく、わかりました」 「それは良かった。後日、改めて連絡をさせていただきます。それでは失礼致します」 最後まで丁寧な物言いの男は、そう言ってボイスチャットを切った。
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