招待選手

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「こーはーく。おっはよう」 「おう。夜だぞ」 「もう……うるさいなあ。ねえねえねえ。ちょっとこれ見て」 「ん? どれ」 このお約束のやり取りが、誰と誰のものなのか、まずはその説明から始めた方がいいのだろうか。 やはりツーだからとはいえ、続編だからとはいえ、手を抜くことは許されないのではないか。 しかし、冒頭に彼女が口にした『こはく』というワードを紐解けば、自ずと偶数行のかぎかっこが誰なのか? 推論を進めるまでもないだろう。 ならば明かしてしまおう。 そう。俺が琥珀なのだ。 推論? 推論というのであれば、この俺と話をしている女子が誰なのか? 説明の前に推論をしてみようじゃないか。 何から推論するか? 愚問というものは、いつの世だって果つることなく湧いて出てくるものだ。 この目の前の黒髪ショートボブの女子は、丈の短い白のワンピース着ている。 それでいて体育座りをしているのだ。 だったら、推論することは一つしかない。 やるべきことは一つしかない。 それなればこそ、俺は視線の角度を下げるのだ。                しかし、この推論という言葉。 推し量って論ずる。 つまり実際に彼女の、この淡い黄色にピンクのリボンがあしらわれた上品でエレガントな、言うなれば、趣深い下着を目にしてしまった時点で、推し量るという前提が崩れてしまったということになる。 黄色い下着に吸い付くようにフィットしている、彼女のこの丸みを帯びた弾力のありそうな、少し小さめの臀部について論じろと言われたら、それこそ長編ものの小説の一本でも描けようものだが、今進めているのはそうじゃない。 推論だ。 アプローチを誤ったわけである。 この場合、彼女が買ったばかりのこの下着を手掛かりに、その持ち主を推論するのが正しい軌道修正になるのであろうか。 白のワンピースに黄色の下着は透けてしまわないのか? 一つの推論が崩されたとき、また一つの論ずるべき問題が生じる。 なるほど。これもまた自然の摂理。 逆らうことのできない法則と言えようか。
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