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「誰も振り返らない…」
「何の話?」
「今、あそこのドアから出て行った人」
「誰かいたの?」
「…社長令嬢」
目を丸くした真里は、周囲をぐるっと見回してからあたしの耳元に口を寄せた。
「誰も振り返らないぐらい地味ってこと?」
「んー…前見たときは、もう少しパッとしてた気が…」
「あたしもそんな記憶。というか、最近、うちの課に来なくなってたから顔なんか忘れた」
そうなのだ。言われてみれば、確かに最近社長令嬢の姿を見ることはなかった。
以前まではルーティンワークのようにシステム課、もとい都市振興部に来ては間宮次長の隣に並んだ。
まるで、自分が婚約者だと知らしめるみたいに。
「思いっきり、目が合ったんだけど」
「バレてんじゃないの?」
「冗談でもやめてくれる?」
「なくもないと思うけどー?とにかく、リスクマネジメントはしっかりね」
数日後、真里の引き寄せを心底恨むこととなる。
いつまでもフラフラとしているあたしに、神様が与えた罰。
リスクマネジメントなんて、何の意味もない。
そもそも、始まってはいけなかったのだから。
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