期間限定の恋人(中篇)

6/40
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
思い出してちょっと変な気になりかけた俺を不審そうに見て、ケイコは続けた。 「ねぇ、あなたたち三人で一緒に住んでるって噂だけど」 「一緒に住んではいない。隣同士」 説明が面倒なので聞かれた時はいつもそう答えている。全く嘘ってわけではない。寝る場所はそれぞれ別にちゃんとあるし。 美術館という特殊な空間に住んでいるという事実については、俺たちの誰も他人には話してない筈だ。特に一時期、アキの住んでる場所は明かしたくない事情もあったから。 「それだって、こういうことになっちゃうと居づらいでしょ。…ねえ、思うんだけど」 彼女はベッドから降りて、俺の背中に身体を押しつけてきた。 「ここで一緒に暮らさない?あたしと」 「え、ここで?…俺と?」 思わずびっくりして首を捻る。何で? 「だって、二人の邪魔しちゃ悪いでしょ。ここなら広いし、何にも遠慮することないじゃない」 「え、でも」 戸惑いつつ振り向いて何とか彼女の方を向く。 「それって君に何のメリットがあるの」 ケイコは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で俺を見た。ややあって、ちょっと低い声で呟くように言う。 「…チサトさんって本当に変わってる」 「そう?」 だって本当に意味がわからない。ケイコは俺が彼女だけじゃないのは知ってる筈だ。全然隠してないから。他の女の子(現在二人ほどいる)も同様。それで平気でいるんだから、こっちは勿論、向こうも遊びと割り切ってるのに違いないわけで。 そんな男に転がり込まれて、べったりいつも側にいられたら嫌じゃないのかな。少なくとも俺なら嫌だ。 急に背後からぎゅっと腕で締め付けられて更に仰天する。…本当に女の子ってわかんない。ずっと精神も女装してきたつもりだったけど、あんなのやっぱり上っ面だよなぁ…。 囁くような声が追い打ちをかけてくる。 「…本当に、あなたって、何にもわかってないのよ」 現実問題としては、彼らは一緒にいる時に二人ができてるということは全く見せつけなかった。タツルとアキが出来上がってた時と同じだ。 いや、それより更に控えめかも。少なくともあの時は、二人は同じ部屋に夜帰って、朝同じ場所から出てきた。特にそれを隠す様子も見せなかった。ただ人前でべたべたはしなかったけど。 アキとジュンタは同じ部屋に住んでる様子でもない。夜はそれぞれの場所に帰っていく。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!